意味に無意味に意味を許すな 上杉清文

意味に無意味に意味を許すな 上杉清文
2017年3月8日 jks47

ここ何年もの間、例えば卒塔婆であるとか、戒名であるとか、領収書であるとか、実用向きの文(字)しか書いてこなかったので、「赤塚不二夫」の営為について、といったおよそ実用とは無縁な戯言を綴るにあたっては、いくら何でも、多少の工夫は、有っても無くても同じことだ。

この御時世、まさに単刀直入な大杉栄がまたモテはじめているようだが、わたしは断然、トランセンデンタルなことがひどく好きな辻潤のほうが好き、である。

「好き勝手放題、ノンノンズイズイと生きることだ」と辻潤は言ったが、いずれ見すぎ、世すぎに楽なもののあろうはずはない。

人生をボンヤリ生きていることでさえもが、すでに生命がけとなってしまった今日この頃、今夜も漱石な心の硝子戸に世の中の鑢が無遠慮に触るような音が聴こえてマイルス。

だからこの際、辻潤を盗用して、ちょいとアーフヘーベンしておく、のであります。

わたしの最近の座右の銘は、辻潤のこんなだだをこねた独語です。

「俺のユートピアは人類がことごとく極端に不真面目になることだ。お役所と警察と裁判所とイクサ人とヤマ師と高利貸と三百代言とヤリ手婆さんと説教する坊主と、訓戒を与える先生(等)から解放されたら、世の中はどんなにか気楽になることであろう。俺のような無精者には少々金のない位は我慢出来るが、シチメンドクサイことや、キュウクツなことはとてもやりきれない」

 

辻潤はうっかり読んでいるとやたらに名言や迷言に出喰してしまうので、とにかく油断は禁物である。

このあたりでもう、「赤塚不二夫」は辻潤みたいな渡り鳥、といった結論が出掛っていますが、肝心なことは常にさておき、先に進めます。

辻潤が一番好きだという俳句は、惟念坊の、

「水鳥や向ふの岸へツゥイツイ」

という句ですが、もっともこの一句しか知らないそうです。

しかし、「水鳥や向ふの岸へツゥイツイ」って。これはもう、ほとんどスーダラ節です。

そして、スーダラ節とくれば、文句なしに、いや文子ありの南伸坊の出番です。

カメラマンの南文子氏との共著『本人遺産』(文藝春秋)で南伸坊氏は、本人自身を世界遺産に登録しろ、と要求しているわけではないが、わたしはそれでもいいと思っている。だが、残念なことは、いや、断固として赦し難いのは、『本人遺産』を最後に、南家の人々によって発見、開発された「本人術」が永久に封印されようとしていることである。誰が悪いのかといえば、子供じゃないンだから、関係者一同が悪いに決まりの金玉だが、ここでやにわに「赤塚不二夫」という問題の問題を導入すれば、事態は賛成の反対になるのだ。

いま、誰が「赤塚不二夫」という問題を継承し発展させるのかという表現上の跡目相続争いが、密かに水面下で陰謀史観と共に進行しているのである。むろん、これを見抜いているのはわたしだけだが、そのうち間抜けな世間も気がつくだろうぜ。

 

問題を絞り込めば、候補者は二人に絞られる。横尾忠則氏と南伸坊氏である。

ほとんど芸術色一辺倒の横尾氏と、ほとんど芸術色のない南氏、勝負は火を見るよりも焼けるほうが早い。

だが、問題は、南氏が「本人術」という顔面特殊攻撃を封じられてしまった場合である。森を失なったベトコンはただの丸見えの土人にすぎない。

ところで、表現上の跡目相続を問題にしたのは、今日の「赤塚不二夫」が必要不可欠だからである。

南氏の色好い返事を待つ間、もう一つの問題について思案してみよう。

「赤塚不二夫」と全日本満足問題研究会(全満研)については『ライブ・イン・ハヤト』というレコードを聴いたぐらいで、実態については何も知らないに等しい。

「赤塚不二夫」とはあまり関係のなかった全日本冷し中華愛好会(全冷中)には全身全霊をささげて「教条派」としての論陣を張ったが、「全満研」のことはいざ知らず、「全冷中」が国家とか革命組織とか何かのパロディであったとしたなら、その全体像を想い描いた仕掛人は、奧成達氏と平岡正明氏であった、といっていいだろう。奥成氏は「全満研」のメンバーでもあった。あるいは仕掛人ではなかったかという気がしないでもない。

平岡氏の著書について、南伸坊氏がこんな感想をもらしていた。平岡氏の著書は『ジャズより他に神はなし』。『三波春夫という永久革命』、『山口百恵は菩薩である』、等々、本のタイトルを見ればだいたいの内容が分かる、だから忙しいときは中身は読まなくてもいいい(笑)。しかし、困った本が一冊あって、それは『韃靼人ふうのきんたまのにぎりかた』で、具体的にはいったいどういうにぎりかたなんでしょう、と南氏が訊ね、いきなり二人が股間を弄り合う光景を目撃することになった悦びを、まるで昨日のことのように思い出してしまうのであった。

平岡氏の著書のなかでは『あらゆる犯罪は革命的である』がもっともポピュラーである。

考えてみれば恐ろしいタイトルだが、これを完全に脱構築してしまったのが奧成達氏である。

曰く「あら、ゆるいわ、は、太平洋である」。

わたしは、うーンと唸ってから、思わず、ヒドイと言って拍手してしまったが、それにしても脱構築としか評せません。 いずれにしても、平岡氏と奥成氏というまぎれもない天才が明るく暗躍した「全冷中」は、わたしにとって楽しすぎるナンセンスの戦場なのであった。

わたしが「赤塚不二夫」と書かざるをえないのは、わたしが赤塚不二夫氏御本人とは一面識もなく、同時期にその近辺を徘徊するだけで、ついにそのナンセンスの戦場には足を踏み入れることがなかったからである。

 

「赤塚不二夫」問題とは、つまるところ、ナンセンスの問題である。

したがって、わたしのなかでは、「赤塚不二夫」問題は、まだ終わっていない。

例えば、わたしは拙論「一九六八年の思想と立正安国」(シリーズ日蓮5『現代世界と日蓮』所収、春秋社)の中で提起した問題を実行するために「呪殺祈祷僧団四十七士」(JKS47)を結成し、毎月、経産省前の反原発テントひろば(現在、跡地)で月例祈祷会を勤修している。JKSはJUSATU KITOU SOUDANで、47は忠臣蔵にちなんだ僧団員の数である。「呪殺」とは、神仏のはからい、霊験によるもので、人を殺すことではない。神仏による音霊、言霊に感応し、それを伝達することを使命とし、死者との「共存・共生・共闘」を理念として掲げている。敗者の視点に立ち、ひたすら死者による裁きを懇請し、祈念する祈祷を行い、悪しき勝者による戦争法案廃案、原発再稼動海外輸出阻止、日米安保条約、日米地位協定の見直し廃案などを訴えている。

メンバーは現在僧侶四人、賛同者は、錚々たる面々で、足立正生、秋山道男、伊達政保、末井昭、深川信也、山崎春美、神蔵美子、等々、異能の各氏である。伊達氏とは「全冷中」以来の共闘だ。

法要「鎮魂  死者が裁く」のなかで「海つばめ」(作詞・足立正生、作曲・秋山道男)が歌われる。素敵な歌なので、歌詞を引いておく。

 

〽夜明け 海つばめ 飛び啼く

陽の輝きが とてもかなしく

かたくなな心に 風の音さえ 突き刺さる

火照った頬には 持ってこいの

凍て付いた アスファルトのベッドがある

破れた旗を 繕う

銀の針は いらない

俺は 暗闇で 爪を研ぐのだ

ここは 俺たちの 戦場

ここは 静かな 最前線〽

 

〽夜明け 海つばめ 飛び啼く

朝焼けの 街角に

木の葉 風に舞う

真珠色した 血ヘドの荒野に

俺は ちいさな炎を放つ

燃やせよ 夜明けを

燃やせよ 街の 夜明けを

炎よ ここは 炎よ ここは

俺たちの戦場

炎よ ここは 炎よ ここは

俺たちの(静かな)最前線〽

 

若松孝二監督の『天使の恍惚』の主題歌として、劇中、作曲の秋山道男氏の伴奏で、横山リエ氏が歌った「海つばめ」は、右でも左でもなく、ただひたすらに任侠の歌である。

さて、もうひとつ、「白馬鹿派」を名乗る大馬鹿野郎どものグループが結成されたが、三年以上経っても何の動きもない。

「白馬鹿派」は、谷岡ヤスジ氏の描いた「村」をモデルとする「新しき馬鹿村」というものを目指しているとかいないとか、じつにいいかげんなもので、さすがは、かつて「総合商社ハンジョー」とか「高級藝術協会」とか「ひまわりの会」などと称して何の脈絡もなく日本の威信を失墜せしめ、国土の劣化と汚染に手を貸した売国奴たちである、と妙な称賛をうけたものであった。

構成員は左記の通りである。

志賀無哉(秋山道男)

武者上野広小路熱帯亭気圧(南伸坊)

高柳光悦(末井昭)

有桜島鉄郞(櫻木徹郎)

里見遁足(上杉清文)

はたして「白馬鹿派」が動けば、ナンセンスの旋風が巻き起こるだろうか。

さて、ところで、ナンセンスの定義はG・ドゥルーズをはじめなかなか厄介だが、わたしにとっては花田清輝なのだ。

「ナンセンスというのは、センスの否定であり、「無意味」というよりも、ボン・サンス(またはグッド・センス)によって、がんじがらめに縛られない前のわれわれの心の状態を指す言葉だ。つまり、それは、童心の世界、本能の命ずるがままに、不羈奔放にわれわれの生きてきた世界  われわれの心の故郷を形容する言葉だ」(「マザー・グース・メロディー」)

こうした花田清輝論を字義どおり実践してみせたのが「赤塚不二夫」であった、というのがわたしの結論である。これでいいのだ。

だが、これでいいわけゃないと思われるかたは、わたしのナンセンス論である『無責任な思想』(北宋社)を読んだらいいのだべし。

合掌

(うえすぎ せいぶん・福神研究所所長)

 

『ユリイカ11月臨時増刊号 総特集▼赤塚不二夫』(平成2016年10月31日発行)より転載